神奈川大学工学部建築学科サステナブル構造研究室

研究内容

日本における二酸化炭素排出量の1/3は建築関連といわれているように,建築物を作るには多くの資源(材料) とエネルギーを必要としています。本研究室では,鋼構造分野における建築物の環境負荷削減をめざし,建築鋼構造のシステム化,座屈拘束ブレース, 部材リユース,鋼と木質材料の複合構造,空間構造,薄板構造に関する研究を行っています。 建築鋼構造の分野は,鋼材という品質の安定した材料を用いてさまざまな実験的研究を行うことができるおもしろい分野です。 そして、そこで得られた成果をビル構造や空間構造にも適用できるなど,多面的に研究を展開させていくことができる分野で もあります。

鋼構造分野における建築物の環境負荷を削減するためには,建築物そのものの長寿命化,部材レベルでの長寿命化(リユース),材料レベルでの長寿命化(リサイクル) があります。

座屈拘束ブレースは軸方向力を伝達する部材(芯材)が座屈しないように,その外周を拘束材で補剛したもので,耐震・制振要素として 優れた構造性能を有しています。損傷制御設計を用いることで座屈拘束ブレースにより地震時のエネルギーを吸収し,建物を長寿命化することができます。 また,機械式亀裂補修工法により,長期に渡って使用された建物に生じている部材の亀裂を補修することで,部材の長寿命化が期待できます。

鋼構造の部材リユースについては,解体しやすい部材の接合法や塑性履歴を受けた部材の性能,損傷に留意した設計法を確立するために解析・実験的研究を進めています。 2021年の東京オリンピックを契機に,部材リユースに取り組んでいます。

鋼と木質材料の複合構造については,長年蓄積した鋼構造技術を活かして,鋼に炭素固定源となる木質材料をハイブリッドすることで,森林再生に貢献す ることを目指しています。現在,曲げ実験,圧縮実験,弾塑性応答解析 などをもとに座屈拘束ブレースを有する鋼木質複合構造の設計法を提案しています。

鋼材は経年変化により,空気中ではさびなどにより腐食が進行します。めっき層の劣化状況を観察することで,鋼材の耐久性が評価できます。

建築鋼構造という分野において、地球環境問題の解決への一助となることを念頭におき、環境負荷削減のための研究を具体的に展開させていきた いと考えています。興味のある方は研究室を訪ねてみて下さい。

建物の長寿命化:座屈拘束ブレース

座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの静的載荷実験
座屈拘束ブレースは軸方向力を伝達する部材(芯材)が座屈しないように,その外周を拘束材で補剛したもので,耐震・制振要素として優れた構造性能を有しています。
座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの適用例1
座屈拘束ブレースを用いた損傷制御設計により地震時の損傷を特定できるため,建物を長寿命化することができます。
座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの適用例2-1
座屈拘束ブレースを用いた「みなとみらいキャンパス」の工事が進んでいます。
座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの適用例2-2
座屈拘束ブレースの芯材には早期降伏と安定した変形性能を得るため,LY225(低降伏点鋼材)を用いています。
座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの適用例2-3
座屈拘束ブレースを用いた「みなとみらいキャンパス」が完成しました。
座屈拘束ブレース
座屈拘束ブレースの適用例2-4
座屈拘束ブレースが内部空間に入りこんでいます。

鋼材の長寿命化:メカニカルスティッチ(MS)工法

疲労実験
疲労特性の解明のための疲労実験
メカニカルスティッチ(MS)工法は溶接を用いないで,古い鋼材の亀裂を物理的に補修する工法です。 疲労性能を解明するための疲労実験を行っています。
引張実験
力学的特性の解明のための引張実験
メカニカルスティッチ(MS)工法に関して,静的引張試験により,破壊性状や耐力を評価しています。
引張試験時の応力集中
メカニカルスティッチ(MS)工法に関して,補強プレートの応力集中(母材を含む)を解析的に追跡している様子です。

建築鋼構造のシステム化

システムトラス
システムトラス
システムトラスは鋼管部材を用いた立体トラスで大スパン構造や曲面構造に用いられています。
建築鋼構造のリユースシステム
テンション構造
テンション構造により透明建築のアトリウム空間が実現されています。
建築鋼構造のリユースシステム
キールトラス構造
キールトラス構造により大スパン建築が実現されています。
建築鋼構造のリユースシステム
吊り構造
吊り構造により緊張感のある空間が実現されています。

鋼と木質材料の複合構造(Composite Steel Timber Structure)

炭素の循環と木材の利用
木質材料による炭素の循環
鋼のリユース,木質材料の炭素固定により環境負荷を削減します(京都議定書では,二酸化炭素の削減目標6%のうち,4%を森林の吸収)。
CSTSの解析モデル
CSTSの解析モデル
4層5スパンのオフィスビルの3Dモデルを作成し,弾塑性解析により安全性を確認しています。
 
CSTSの架構モデル
CSTSの架構
CSTSの架構は座屈拘束ブレースを方杖状に配置することで,大きな開口部を確保します。
CSTSの応答解析(El Centro NS)
10層5スパンのCSTSの柱・梁は,座屈拘束ブレースの塑性化により地震エネルギーを吸収するため,弾性挙動します。
CSTS部材の曲げ実験
CSTS部材の曲げ実験
鋼木質複合構造の力学的特性を解明するために,梁の曲げ実験を行っています。
CSTS接合部の面内せん断実験
CSTS接合部の面内せん断実験
鋼木質複合構造の接合法の相違による力学的特性を解明するために,面内せん断実験を行っています。
CSTS柱梁接合部実験
CSTS柱梁接合部実験
鋼木質複合構造の柱梁接合部の応力伝達を解明するための実験を行っています。
CSTSに適合する床構造の面内せん断実験
CSTSに適合する床構造の面内せん断実験
鋼木質複合構造に適合する床構造の接合法に関する面内せん断実験を行っています。
 
CSTS柱梁接合部のディテール
CSTS柱梁接合部のディテール
鋼と木質材料の複合構造の柱梁接合部には,エネルギー吸収部材として座屈拘束ブレースを用いています。
CSTS接合部の面内せん断実験
CSTS部材の短柱圧縮実験
鋼:角形鋼管,木質材料:スギ集成材,鋼と木質材料の接合法:接触接合
 

建築鋼構造のリユースシステム

建築鋼構造のリユースシステム
鋼構造のリユース
「長寿命化」を第一に考え,さらに,意匠的,経済的,社会的な要因により、解体しなければならない場合,建築物や部材の「リユース」は有効であると考えています。
耐火被覆の施工実験
耐火被覆の施工実験
吹付け工法,巻付け工法,成形板張り工法の施工実験を行い,耐火被覆を有する建築鋼部材のリユースの可能性を追求しています。
建築鋼構造のリユースシステム
部材リユース
既存建物を丁寧に解体し,採取した柱・大梁・小梁などリユース部材として新規の建物に使用した際の模式図です。
部材リユースのための丁寧な解体工法
丁寧な解体工法により,リユースされた既存建物のアニメーション(解体順序)です。

薄鋼板の耐久性評価:複合サイクル試験

ソーラーパネル取付金具
ソーラーパネル取付金具
屋根に使用されるソーラーパネル取付金具(厚さ:3.2mm)に関して,薄鋼板仕様の耐久性評価を行っています。
複合サイクル試験
複合サイクル試験:90サイクル終了時
電気亜鉛めっきのボルトには赤さびが発生していますが,ソーラーパネル取付金具(溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板)の赤さびは僅かです。
ボルト複合サイクル試験
ボルト複合サイクル試験
複合サイクル試験後のボルトです。電気亜鉛めっきでは、赤さびが表面の殆どに発生し、溶融亜鉛めっきでは白さびが殆どを占め、赤さびが部分的に発生しています。
SEM
エネルギー分散型X線(EDS)分析
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた、溶融亜鉛めっき鋼板の取付金具のSEM画像およびEDS分析結果です。

鋼構造のシステム化:損傷制御構造としたシステムトラス

システムトラス
システムトラス
システムトラスとテンション構造を組み合わせたアトリウムです。
システムトラス
システムトラスの挙動
システムトラスに履歴ダンパーを組み込むことで損傷制御構造としています。大地震時に履歴ダンパーを塑性化させることで安全性を確保しています。
制振ダンパー(ST45)の復元力特性
履歴ダンパー(ST45)の復元力特性
履歴ダンパーは引張側と圧縮側において安定した復元力特性を示すため,エネルギー吸収を効果的に行います。

鋼板外装材の日射時の熱挙動

鋼板外装材の日射時の温度振幅
屋外実験(外装材:断熱パネル)
鋼板外装材の日射時の温度振幅による累積疲労損傷を解明するための実験を行っています。
二重折板屋根の日射時の熱挙動
二重折板屋根の日射時の熱挙動
二重折板屋根の日射時の熱挙動を調査するため,温度・変位を計測しています。