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 神奈川大学23号館の免震構造概要   工学部建築学科 荏本孝久


1.はじめに

 本学では、創立70周年記念事業の一環として、横浜キャンパスの再開発が計画、1号館と工学部の3号館、4号館が建て替えられることになった。建て替えに当たっては、1号館についてはCFT柱を用いた耐震型構法が採用され、3・4号館については、大地震時に人命保護に留まらず建物機能を維持し、貴重な研究資産、危険な実験材料、高価な機器の被害を低減させる目的で免震構法が採用された23号館として新築されることになった。両棟は2001年3月末に完成したが、本報告では、主として23号館の免震構造について紹介する。


2.免震構造 1)2)

 免震構造は、一般に図―1に示すように建物基礎と上部構造との間に免震装置によって構成される免震層が設けられる。免震層の働きとしては、柔らかいばね特性によって構造物系基本周期を2〜3秒程度のやや長周期域に移すとともに、この部分に大きい減衰性を持たせて地震動による入力エネルギーを吸収し、その上部構造への伝達を低減させることにある。したがって、免震装置は上部構造の支持性能,柔らかいばねとしての変形性能と復元性能,さらにエネルギー吸収性能(減衰性能)が重要となる。現在多く用いられている免震装置は支承とダンパーに大別される。支承としては、@積層ゴム支承とAすべり支承があり、主として減衰性能を受け持つダンパーとしては、@履歴型とA粘性型がある。免震層により望ましい復元力特性を与えるために、これらの支承およびダンパーのそれぞれの特徴を組み合わせて免震層が構成される場合が多い。阪神・淡路大震災によって多数の建築構造物が大被害を受けたことから、近年免震構造に対する関心が急激に高まっている。


3.23号館免震建物の概要 3)

免震層設置位置は、地下1階の教室採光のため必要となるドライエリアが、免震層の可動量を確保するスペースとの兼用を図れること、また免震層下部にあたる地下2階の主な用途が機械室、図書館書庫であり、機能的にも耐震壁を多く配置し、上部構造の基礎として十分な剛性、耐力を持たせることが可能であることから、地下2階と地下1階床の間に設けられた。このため、外部から1階への入り口は、大地震時に建物が移動できるように工夫がしてあり、その注意書きが掲示されている(写真-1)。上部構造は純ラーメン鉄筋コンクリート構造を、下部構造は十分な耐震壁を配置した耐震壁付ラーメン鉄筋コンクリート構造が採用されている。  免震部材は、天然ゴム系積層ゴムアイソレータとダンパーとして鉛ダンパーと鋼棒ダンパーが用いらレテいる(写真-2)。免震層は、大地震時の応答変形が、積層ゴムの設計許容変形(30cm)以下に留める設計とした。また免震層でのねじれ変形を抑えるため、上部構造の重心と免震部材の剛心が一致するように免震部材が配置されている。



4.23号館(免震棟)の振動実験 4)

積層ゴムアイソレータ、鉛ダンパー、鋼棒ダンパーが全て配置された状態で2000年12月に、基本的な動特性を確認するため常時微動測定と起振機加振実験が実施された。起振機加振実験では、定常加振実験と自由振動実験を実施した。加振実験ではスライドマス式の長周期型起振機2台を8階に設置して加振を行った。加振は、振動数によらず加振力が一定となるようにNS、EW方向及び捩れ方向加振を行った。また、NS方向では加振力を3段階に変えて実験を行った。振動計は速度計を用い、加振方向に合わせてNS成分とEW成分について独立に測定した。振動計は各階中央部と、免震層・地下1階・3階・6階・屋上階の測定方向と直交する方向の両端部に水平成分を計22点、免震層・地下1階・屋上階に上下成分を計14点配置して測定した。 この実験の結果から、次のような基本的な動特性が得られている。 @ 常時微動測定及び定常加振実験により振動特性を確認した。常時微動測定から求めた1次モードの固有振動数と減衰定数は、約1.6Hz,約1.6%と得られ、推定手法によらず概ね同じ値を示した。また、応答振幅の増加にともない固有振動数は低下し、減衰定数は増大する傾向が見られた。 A 起振機加振・自由振動実験から免震層の復元力特性を評価した。免震層の等価せん断剛性・等価減衰定数は、微小な相対変位から強い非線形性を有し、相対変位の増加に伴って等価せん断剛性は減少し、等価減衰定数は増加することが明らかになった。また、若干の振動数依存性も確認された。


5.TEDCOMプロジェクト

 免震棟の建設をきっかけをして、産官学共同研究プロジェクト構想ならびに文部省学術フロンティア研究プロジェクト構想が打ち出され、2000年4月、建築学科構造システム系教員をコアーメンバーとして、両者が実質的にスタートした。  産官学共同研究は基本テーマを「建築物における地震、台風防災に関する研究」とし、第1ステージのテーマを「制振・免震装置の評価/開発」としている。他方、文部省学術フロンティア研究の基本テーマは「地震・台風災害の制御・低減を目的とした制振・免震デバイスの開発ならびに損傷制御設計法に関する研究」である。TEDCOMプロジェクトは両者の総称した名称「地震・台風災害の制御低減研究」の略称で、サブテーマの一つに「デバイスを設置した建築物の実挙動観測」がある。  今後、強風・地震観測記録の蓄積・整理、制振・免震デバイスの特性を反映した風洞実験用振動モデルを開発、地震・風応答シミュレーション手法の検証・開発等関連研究と連携をとりながら、図-2に示す新1号館、23号館の振動観測を進めることになっている。    図―2 23号館の動的挙動観測システム




6.おわりに

 大学の建物で免震構造で建設される事例は数少ない。1995年阪神・淡路大震災では、多くの大学の建物も被災したことが報告されている。幸い地震発生が午前5時47分と早朝で授業が始まる前であったため人的被害は多くなかった。もしも、授業時間帯であったらと思うと恐怖の念に駆られる。一方、2000年6月に建築基準法が改正されるとともに性能設計に移向した。今後、大学の建物として本学23号館のような免震構造の校舎は増加するものと考えられるが、同時に、現在展開されているTEDCOMプロジェクトにより、23号館の動的挙動の解明、耐風・耐震性の検討と平行して合理的な免震・制振構造の開発と進展に寄与できるものと考えられる。


謝辞
 本報告をまとめるにあたり、資料・写真の提供に関しまして、大学当局ならびにキャンパス再開発計画実施本部に多大な御協力を頂きました。記して謝意を表します。

参考文献
1) 井上 豊:制振・免震構造の現状と動向、制振・免震構造マルチガイド、建築技術、1997.5
2) 免震構造協会編,「免震構造入門」,オーム社出版局,1996
3) 大熊武司他,「免震構造の設計について―安全で快適な建物の実現を目指して―」,神奈川大学工学研究所所報,No.20,pp.83-99,1997
4) 吉田和彦他,「神奈川大学23号館(免震棟)および新1号館の振動実験(その1〜3)」、建築学会2001年度大会(関東)、2001.9
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神奈川大学工学部建築学科・工学研究科建築学専攻