神奈川大学23号 ―計画と建設― 高橋志保彦
THE PLANNING, THE DESIGN AND THE CONSTRUCTION OF THE BUILDING23 SHIOHIKO TAKAHASHI
23号館は「21世紀の大学」を標榜する本学において、20世紀の最後に完成し、21世紀から
供用を開始した記念すべき新棟である。旧3号館(昭和30年竣工)、4号館(同37年竣工)
が耐震的に問題があるうえ老朽化していたためにそれらに替わるものとして新築したもので、
旧3、4号館にあった工学部関連の諸室と一般講義室、それに新しく情報教育演習室、図書
館(15号館)書庫の増設スペースを容れ、より安全な構造と学術的な意味をもつ免震構造を
採用した。地下2階地上8階、床面積20,000uを越える、キャンパス内最大の規模を有する
建物である。
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1.横浜キャンパス再開発計画の経緯
平成7年(1995年)1月の阪神・淡路大震災後、本学において耐震診断が行われ、構造的に問
題のある建物が判明した。翌8年11月、理事会に「耐震部会」が発足し、施設耐震化計画とと
もに、キャンパス内施設の総合的な将来構想を描くマスタープラン作成が行われた。理事長
からの要請を受けて、「人命尊重」、「財産保全」の観点から耐震補強を計画し、あわせて
社会情勢の変化、特に18歳人口の減少への対応や社会に開かれ地域の核となるべく魅力ある
キャンパスづくりを目指し、将来の姿を見据えた施設および「環境整備」のマスタープラン
づくりに取り掛かった。その際、容積率の超過、高さ制限の超過という既存不適格の2つの
大きな難問をクリアーしなければならなかった。これらに関しては、私自身横浜市の公開空
地に拘る委員会の座長を努めたこともあり、横浜市建築局との打合せと指導のもとに、一団
地認定によって容積問題が解決し、敷地の15%の公開空地を創り出すことによる高さ緩和によ
り31mの建物をつくることを可能にした。新棟の日影が法律で示された範囲以外に近隣に落と
さないようにして位置を考慮した。機能、学内動線計画、ボリュームバランス等の要因をも
あわせて検討し、それに学年暦や年間の行事スケジュールが途切れないようにすることも重
要なことなので、工事の段階計画を立てながら慎重に配置計画を立てた。23号館をグラウン
ドに一部に置くためには体育の先生方との幾度かの検討会を経て合意を得た。1号館、人間
科学棟と外部空間を含む全体のマスタープランを作る基本構想、法的チェックや工事費概算、
工事工程計画を作成し、フィージビリティスタディのもとに基本計画を作成した後、理事会
の承認を得て現在の位置に決定された。
1999年3月に起工式が行われ、2001年2月に竣工した。再開発本部を軸に、発生する諸問題の
検討・解決に費やした関係者の努力とエネルギーの量は、計り知れない。各学科の床の配分、
位置の決定には当時の工学部長を中心に、各学科代表との協議で決定された。工事の間、学
生をはじめ全ての教職員の方々からの理解を得て、近隣の方々には多大のご迷惑をおかけし
たが理解と協力を頂き、無事故で工事を完遂することができた。
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2.建築概要
建築場所: 横浜市神奈川区六角橋4丁目675−1
地域・地区:第2種中高層住居専用地域
第3種高度地区、準防火地域
認定・許可:一団地認定、高さ許可
建築用途: 学校
敷地面積: 79,853.23u(グラウンド地区+本部地区のみの面積)
建築面積: 2,372.69u
延べ床面積:21,152.35u
基準階面積: 2,104.87u
階数: 地下2階、地上8階、塔屋2階
階高: 地上階3.7mB1階5.0m免震層2.3mB2階6.0m
高さ(軒高): 30.95m
構造: RC造、 直接地業、RC造べた基礎
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3.建築計画
計画コンセプト
・機能と形態が一致し、安全で使いやすい教育・研究棟を創る
設計における基本事項
・工学部の研究・実験諸室を4階以上に、一般講義室と情報化に対応した情報教育演習室は
多人数の学生が同時間帯にアクセスするため、エレベータよりも主に階段を利用するよう
1〜3階に配置
・図書館書庫の増設スペースを現図書館の地下書庫との連絡を図るため地下2階に計画
・工学部の実験室も入るという建物の性格から安全性を重視し、免震構造の採用
・建物の外観は、水平の避難用のバルコニーと垂直の各種配管やダクト類のカバーによるシ
ンプルな立面により、現代的、かつテ
クノロジーを表徴するファサード
・室内環境は、可能な限り快適に、かつ維持管理費用がかからないよう計画
配置計画
・グラウンド地区の中央東側、現図書館(15号館)の西側とし、狭くなるグラウンドが、
できるだけ有効に活用できるよう配置計画
・本部地区への動線は、17号館東側低層部のルーフ上から道路を跨ぐ歩道橋にて確保
・資材搬入等、車でのアプローチは図書館の南から
安全性
・地下1階と地下2階との間に設けられた、免震構造によって、人命に加え、情報機器類、
実験機器類、実験材料、研究資産が守られる
・動的観測装置(振動計)や柱のひずみ測定装置(ひずみ計)が建物内に設置され、得ら
れるデータから免震建物の動的挙動の把握
と検証に使用
・各階のバルコニーによって2方向避難を確保
・避難階段の有効配置
機能性と居住性
・中廊下式で多くの講義室、研究室、実験室を集約し、機能的かつ経済的配置の平面計画
・1階に、情報教育のため、情報教育演習室の設置
・情報教育演習室や工学部の諸室には、個別分散型空調システムを採用、負荷に応じた個
別制御も可能
・法学部の授業で使用する法廷教室の設置
・玄関ホールを2階分の吹き抜け空間として、開放感のあるロビーを計画
・ロビー部分にオープンな階段を設け、足元にステップのある床を学生の交流の場として
設置
・2基のエレベータの他に人荷用エレベータ1基を設備
・清潔で明るく、使いやすいトイレの設置
・中・高層階の各室からのよい眺望
維持・更新性
・工学部階廊下の半露出天井内、避難用バルコニーの下、バルコニーの縦パネル内は、実験
用ダクト、配管、配線の幹線ルートとなり、維持・更新が容易
・実験室は原則として天井を設けず、広々とした空間と実験機器の維持管理の容易性を確保
・各階に情報系シャフトを兼ねたネットワーク管理室があり、内外のネットワーク構築に対応可能
・研究用の重要負荷に対するバックアップとして非常用発電機や雷サージ保護回路を設けて、
電源供給の信頼性を確保
ランニングコストの低減
・前述した個別分散型空調システム採用により、居住性を高めるとともに中央熱源に依存し
ない負荷に応じた制御により省エネ
・発光効率の高いHF型蛍光灯を全館に採用
・実験用循環型冷却水システムや節水型便器による上水使用量の削減
これから先、この建物が本学の発展に十分寄与していくことを願っている。
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