TEDCOM研究概要
建築物の地震・台風防災に関する研究
Typhoon and Earthquake induced Disaster Control and Mitigation
研究代表者 : 大熊武司 (神奈川大学 工学部 建築学科 教授)
研究の概要
本TEDCOMプロジェクトは関係する分野が非常に幅広いため、下記に示す4研究テーマを構築し、各研究テーマが相互に連携をとりつつ総合的成果を目指した。
各研究テーマの研究の概要は以下の通りである。
〈研究テーマ@〉: 制振・免震デバイスの性能確認実験および開発
- 鋼製デバイスの実験および開発
既存の鋼製制振デバイス(軸降伏型履歴ダンパー)のうち、芯材の座屈拘束条件が異なる4種代表モデルについて、それぞれの耐震性能を確認するために降伏荷重値等をそろえた同一載荷条件による静的繰返し実験を実施した。
また、両端部ディテールに自由度があり、品質管理を厳しく行え、高歪状態においても安定した復元力特性を示す座屈拘束ブレースを開発するため、鋼モルタル板高さを変化させ拘束力を調整した試験体及び芯材幅厚比を変化させた試験体を数種製作し、デバイス拘束力及び芯材幅厚比の変化が履歴特性に与える影響、累積塑性歪エネルギー、弾塑性性状、補剛性状等を検証するための繰り返し軸方向載荷実験を行った。
- 鉄筋コンクリート製制振デバイスの開発
鉄筋コンクリート造コアタイプの短スパン梁への適用として、この部分に適した新たな制振機構となる、地震後の修復性が良好でエネルギー吸収能力に優れた高エネルギー吸収X型配筋鉄筋コンクリート製梁を、数種の実験をもとに考案した。
X型配筋梁は、X型主筋をデボンドとして鉄筋が引張り降伏してもコンクリートに引張り力が伝わらずクラックの少ない梁となっており、また、梁端部のコンクリートにノッチなどを設けて圧縮側の鉄筋が圧縮降伏し、エネルギー吸収能力が増加するようにしたものである。
- 粘弾性ダンパーの検討
木造住宅の耐震性向上に利用され始めている粘弾性ダンパーは、台風のように長時間作用する動的外乱に対して温度が上昇し、設計上の性能が発揮されない恐れがあるため、長時間加力実験を行い、粘弾性体の温度上昇量と剛性変化量を示した。また、木造住宅の風応答の試算を行い、その制振効果について検討した。
〈研究テーマA〉: デバイスを設置した建築物の実挙動観測
- 地震観測
神奈川大学の実挙動観測システムは、同時期に新築された1号館(非免震構造)および23号館(免震構造)の建物内に各々5箇所(各3成分)と、両号館の中間に位置するキャンパス内の地盤中に2箇所(地表、地中、各3成分)に振動計を配置し、強風・強震時の振動計測を行っている。
現在も観測を継続しているが、2003年9月までに観測された地震観測結果から得られた地震時動的挙動による検証、また、地震観測記録と微動観測記録による地盤振動特性の比較を行っている。
- 強風観測結果
免震構造は、強震や台風などの外乱に遭遇した事例が少なく、その情報も乏しいため、神奈川大学23号館を対象として常時微動測定、地震および風外乱に対する実挙動観測を行い、捩れ振動特性、固有振動数、減衰特性、振動モード、免震層の復元力特性等について検討した。
〈研究テーマB〉 地震・風応答シミュレーションおよび観測結果との比較
- 地震応答シミュレーション
23号館の設計資料に基づいてモデル化した多質点等価せん断型モデルに、観測された地震記録を人力とした地震応答解析を行い、観測記録との比較を行なった。次に、振動実験結果および地震観測結果に基づいて微小振幅レベルにおける免震層の復元力特性を検討し、検討した復元力特性を用いて地震応答解析を行ない、観測記録との比較を行った。
また、本建物は地下2階を有しており、基礎床付けレベルは設計GL−16m程度の深い埋め込みを有することから、建物周辺地盤の影響を考慮した地盤−建物連成系モデルにより地震応答解析を行った。
- 風応答シミュレーション
免震建物は風による影響を受けやすく、居住性を大きく損なう恐れがある。免震部材を適正に設計し配置するためには、風に対する挙動を精度良く把握しなければならない。
このため、小規模軽量免震建築物を対象に、弾性応答時の風方向最大変位に対する免震層の降伏点変位の比βと風方向変動風力に対する風直角方向変動風力の比γを解析パラメータとして、風方向風力と風直角方向風力の二方向人力による弾塑性風応答解析を行った。
また、免震建物では、通常の建築物に比べて固有振動数が低く、並進と捩れの固有振動数が接近しており、通常の建築物に比べて空力不安定振動が生じる可能性が高いと考えられるため、中低層免震建物を対象に、免震層の復元力特性を取り入れた風洞実験用多自由度弾塑性模型を開発し、基本性能および応答性状を確認した。
さらに、免震建物の風応答解析においては、免震部材の復元力特性を精度良く表現できるモデルが必要であり、加えて捩れ振動を表現できる解析モデルを用いることも同時に重要であるため、鉛をデバイスとして使用した免震建物に着目し、微小な振幅から弾塑性挙動を示す復元力特性モデルとクリープ変形を考慮した時刻歴風応答解析方法を提案した。
〈研究テーマC〉 損傷制御設計法の確立
- 鋼製建物について
損傷制御構造のエネルギー吸収機構として座屈拘束ブレースが用いられているが、座屈拘束ブレースが実際の建物に組み込まれたときにどの程度その性能を発揮するかについては不明確な点が多いこと等を解消するため、最も標準的と考える損傷制御構造モデルを対象に、精度の高い骨組み解析理論に基づいた数値解析を行い、各レベルの地震動を人力し、座屈拘束ブレースに要求される性能を明らかにした。また、性能評価式に基づいた座屈拘束ブレースの設計法を提案した。
- 鉄筋コンクリート製建物について
耐震設計の基本として性能設計が指向されるようになり、また、阪神大震災以降、大地震後でも建物を使えるという要求が強くなってきていることを考慮し、部材の性能を高め、地震後の補修が容易な構造形式、構造部材の開発をめざし、水平力はもっぱらコアで負担し、それ以外の部材は鉛直力のみを負担させるRC壁コアとCFT+フラットプレート構造を組み合わせたハイブリッド(HB)構造の設計手法と、損傷評価について検討した。
- 強風時の疲労損傷評価
強風特性のモデル化の違いが疲労損傷評価に及ぼす影響について検討するため、日本付近を通過する台風の統計的性質を取りまとめ、モンテカルロ法によって日本全域に渡る台風シミュレーションを可能にした。続いて、台風シミュレーションによって推定される平均風速の見掛け上の評価時間を推定した。さらに、強風の強さの評価法として観測記録に基づいた場合、台風シミュレーションによる場合等について1建物を事例に疲労損傷度を検討した。
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